健康

犬の混合ワクチン 5種と10種の違い|費用と選び方の基準【2026年版】

犬の混合ワクチンは2種から11種まであり、増えるのはほぼレプトスピラです。コアとノンコアの区分、対応疾患のマトリクス表、日本獣医師会の料金調査による費用差、WSAVA2024年版でのレプトスピラの位置づけ変更まで、公的資料をもとに整理しました。

診察台の上でおとなしくしている犬
この画像はAIで生成したイメージです。実在の場所・書類・製品を撮影したものではありません。

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「5種でいいですか、10種にしますか」

動物病院でこう聞かれて、その場で決められた人ってどのくらいいるんでしょうか。値段は倍近く違うのに、何が増えるのかは説明されないまま。とりあえず「じゃあ5種で」と答えて、帰り道でモヤモヤする。

モヤモヤするのが当然なんです。この「◯種」という数え方自体が、かなり分かりにくい仕組みになっています。

この記事では、公的なデータベースに載っている実際の製品の添付文書と、世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインをもとに、5種と10種で本当に何が違うのかを整理します。

この記事の目次
  1. 結論から言うと 🐾
  2. そもそも「5種」の数え方がおかしい 🦴
  3. 何種で何が増えるのか:対応疾患マトリクス
  4. 3年に1回のものと、毎年のものが混ざっている
  5. 種類別に見る:向いている犬と、弱点
  6. 5種・6種 — 中核だけを押さえる構成
  7. 7種 — レプトスピラを足すが、コロナは足さない
  8. 8種・10種 — コロナとレプトスピラを厚くする構成
  9. そして、順位をつけない理由
  10. 費用はいくら違うのか 💰
  11. 一次情報:2024年にレプトスピラの位置づけが変わった
  12. 一次情報:日本のレプトスピラは「人」と「犬」で流行地が違う
  13. 一次情報:副反応の実数
  14. 狂犬病予防注射は、2027年3月から通年接種になります 📋
  15. 混合ワクチンの接種率は、意外と低いかもしれません
  16. かかりつけで聞くとよいこと
  17. よくある質問
  18. まとめ

結論から言うと 🐾

時間がない人向けに、3行で。

  • 室内飼いで、散歩は都内の舗装路が中心。川にも山にも行かない → 増える分(レプトスピラ)の曝露機会が少ない生活パターンです。5種〜6種で足りるかを獣医師と相談する対象になります
  • キャンプ・川遊び・登山に連れて行く。田んぼや藪のある地域に住んでいる → レプトスピラ入り(7種以上)を検討する側です。ただし年1回の接種が前提になります
  • どちらとも言えない、年に数回だけアウトドアに行く → 「その時期の前に打つ」という選択肢もあります。ここは獣医師の判断が要る領域です

混合ワクチンは要指示医薬品です。獣医師の診察と指示がないと入手できません(日本動物用医薬品協会)。つまり最終的にどれを打つかは、この記事を読んでも決まりません。決まるのは「何を聞けばいいか」です。それを持っていくための記事だと思ってください。

そもそも「5種」の数え方がおかしい 🦴

5種混合ワクチンに、実は抗原は4つしか入っていません。

公益社団法人 日本獣医師会「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査(平成27年公表)」
公益社団法人 日本獣医師会「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査(平成27年公表)」(jvma-vet.jp・2026-10-12時点の画面)

たとえばMSDアニマルヘルスの「ノビバック DHPPi」。動物用医薬品等データベースで有効成分を見ると、こう書かれています。

  • 弱毒ジステンパーウイルス
  • 弱毒犬アデノウイルス(2型)
  • 弱毒犬パラインフルエンザウイルス
  • 弱毒犬パルボウイルス

4つです。ところが「効能又は効果」の欄はこうなっています。

犬のジステンパー、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型感染症、犬パルボウイルス感染症及び犬パラインフルエンザウイルス感染症の予防

疾病名は5つ。だから「5種」。

なぜズレるのか。犬伝染性肝炎の原因は犬アデノウイルス1型(CAV-1)ですが、ワクチンに入っているのは2型(CAV-2)です。2型のワクチンが1型にも効くので、効能欄には両方が書ける、という仕組みになっています。

これは日本獣医師会雑誌に載った解説にも書かれています。

犬アデノウイルス2型感染症のワクチンは、犬伝染性肝炎(病原体は犬アデノウイルス1型)にも有効であることから、混合数を1種類増やした名称で販売されている (平山紀夫・青木博史「日本における犬用ワクチンの製造状況とその副作用」日獣会誌 76: 124-128, 2023)

WSAVAの2024年版ガイドラインにも、なぜ1型ではなく2型を使うのかがFAQで説明されています。昔は1型を使っていたけれど、角膜が青く濁る「ブルーアイ」という副反応がまれに起きた。2型は1型に対して強い交差防御を示し、角膜浮腫を起こさないので置き換わった、という経緯だそうです。

入っている抗原 4つ ジステンパー アデノウイルス2型 パラインフルエンザ パルボウイルス 添付文書「有効成分」欄 交差防御 効能に書ける疾病 5つ ジステンパー 犬伝染性肝炎 アデノ2型感染症 パラインフルエンザ パルボウイルス感染症 添付文書「効能又は効果」欄 「5種」 商品名の呼び方

つまり「◯種」の数字は、入っている成分の数ではなく、添付文書の効能欄に並んだ疾病名の数です。ここを知らないと、以降の話が全部ズレます。

そしてもうひとつ。レプトスピラは血清型ひとつにつき1種とカウントされます。だから種数は簡単に増えます。

選び方の基準

この記事で5種から10種までを比べるときは、次の3点を基準にしています。

  1. 公的資料に記載があるか — 各製品の抗原と効能・効果は、農林水産省 動物医薬品検査所の動物用医薬品等データベースに掲載された添付文書の記載でそろえています
  2. 生活環境ごとの曝露リスク — 種数が増える部分(主にレプトスピラ)に犬が触れる機会が、住んでいる地域や散歩・レジャーのパターンでどう変わるか
  3. 接種間隔と費用の負担 — 3年に1回でよいとされる部分と毎年必要とされる部分の違い、および日本獣医師会の診療料金実態調査による費用差

種数の多さで順位はつけていません。増える部分が必要かどうかは、犬の生活によって変わるためです。

何種で何が増えるのか:対応疾患マトリクス

承認製品の効能・効果をもとにした対応表です。●は効能・効果に記載があるもの。

ゾエティス・ジャパン株式会社「バンガード®の製品概要」
ゾエティス・ジャパン株式会社「バンガード®の製品概要」(zoetis.jp・2026-10-12時点の画面)
種数 製品の例 ジステンパー 犬伝染性肝炎 アデノ2型 パラインフルエンザ パルボ コロナ レプトスピラ
2種 ノビバック PUPPY DP ● − − − ● − −
5種 ノビバック DHPPi/バンガードプラス5/ユーリカン5 ● ●※ ● ● ● − −
6種 バンガードプラス 5/CV ● ●※ ● ● ● ● −
7種 ノビバック DHPPi+L/ユーリカン7 ● ●※ ● ● ● − 2血清型
8種 バンガードプラス 5/CV-L ● ●※ ● ● ● ● 2血清型
10種 バンガードプラス 5/CV-L4 ● ●※ ● ● ● ● 4血清型

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※ CAV-1の抗原は含まれておらず、CAV-2による交差防御で効能に記載されています。

見ての通り、5種から先で増えているのは、コロナウイルスとレプトスピラだけです。ジステンパー・肝炎・パルボといった重い病気の部分は、5種でも10種でも同じ中身です。

5種 中核の5疾病 ジステンパー・肝炎 アデノ2型・パルボ パラインフルエンザ 6種 中核の5疾病 +コロナ 7種 中核の5疾病 +レプト 2血清型 8種 中核の5疾病 +コロナ +レプト 2血清型 10種 中核の5疾病 +コロナ +レプト 4血清型 (+2型)

増えているのは、コロナとレプトスピラの血清型だけ 重い感染症に対する中核部分は、5種でも10種でも共通

同じ「8種」でも中身が違う場合があります。ゾエティスの8種はコロナ+レプト2血清型です。一方、過去に販売されていた製品には、コロナを含まずレプト3血清型で8種としていたものもありました。「8種にしましょう」と言われたら、レプトスピラが何血清型入っているのかを聞くほうが確実です。

3年に1回のものと、毎年のものが混ざっている

同じ1本の注射の中に、免疫の持ちが全然違うものが同居しています。

これは海外のガイドラインだけの話ではなく、日本の添付文書にそのまま書かれています。ノビバック DHPPi+L の添付文書には、こうあります。

ジステンパーウイルス、犬パルボウイルス及び犬アデノウイルス(2型)については3年の抗体持続、犬パラインフルエンザについては1年の防御効果が認められている。…レプトスピラについては1年の防御効果が認められているので、追加接種の間隔はこれらを考慮すること。

WSAVAの整理と一致しています。WSAVAはワクチンを3つに分類しています。日本語版ガイドラインの言葉を借りると、

  • コアワクチン=「その状況や地理的位置にかかわらず、すべての犬と猫に接種すべきワクチン」
  • ノンコアワクチン=「地理的要因、その地域の環境、またはライフスタイルによって、特定の感染症のリスクが生じる動物にのみ必要なもの」
  • 非推奨ワクチン=「その使用に関して科学的な正当性がほとんどない(根拠となるエビデンスが不十分な)ワクチン」

そのうえで、VGG(ワクチネーションガイドライングループ)の基本方針がこう要約されています。

私達は、すべての動物にコアワクチンを接種することを目指す。ノンコアワクチンは、必要と思われる頻度を超えて接種してはならない。

コア(すべての犬に) ジステンパー/アデノウイルス/パルボ +狂犬病(日本では法律上の義務) 5種にはこの3つが入っています 再接種の間隔 3年に1回、またはそれ以上 子犬の初年度接種と、生後6か月ごろの 追加接種を終えたあとの話です ノンコア(生活によって) レプトスピラ/パラインフルエンザ ボルデテラ(ケンネルコフ)など 7種以上で増える部分 再接種の間隔 毎年1回 持続期間が短いため、間隔を空けられません 非推奨:犬コロナウイルス(WSAVA 2024年版で "not recommended" に分類)

この構造が分かると、費用の考え方が変わります。

10種を毎年打つと、3年に1回でよいとされる部分まで毎年打つことになります。逆にレプトスピラを2年空けると、レプトスピラの部分は防御が期待できない可能性があります。WSAVAは、前回から間隔が空いた場合は「2〜4週間隔で2回」に戻すことを推奨しています。

だから実務上は「コアは3年ごと、レプトスピラだけ毎年」という組み方もありえます。そのために、レプトスピラ単味のワクチンが実際に承認されています。バンガードL4(4血清型)やノビバック LEPTO(2血清型)がそれです。この組み方ができるかは病院の方針にもよるので、聞いてみる価値はあります。

種類別に見る:向いている犬と、弱点

5種・6種 — 中核だけを押さえる構成

👍 向いている犬

室内中心で、散歩コースが舗装路や公園。川・田んぼ・山林に立ち入らない。都市部の小型犬で、旅行にもほとんど行かない子。

📝 選ぶ前に知っておきたいこと

レプトスピラに対応していません。旅行やキャンプを急に決めたときに、その場では間に合いません。レプトスピラは初回だと2〜4週間隔で2回接種が必要とされているので、「来週キャンプだから今日打つ」では免疫が間に合わない計算になります。WSAVAは、2回シリーズの1回目だけでは免疫がないものとして扱うべき、としています。

なお6種で増える犬コロナウイルスについては、後述しますがWSAVAが「非推奨」に分類している成分です。

7種 — レプトスピラを足すが、コロナは足さない

👍 向いている犬

アウトドアに行くけれど、コロナ分は要らないと考える場合。ユーリカン7、ノビバック DHPPi+L などが該当します。

📝 選ぶ前に知っておきたいこと

レプトスピラは2血清型(カニコーラとイクテロヘモラジー)です。日本国内で報告されている型は、それだけではありません。

8種・10種 — コロナとレプトスピラを厚くする構成

👍 向いている犬

河川や山林への曝露機会が多い犬。10種(バンガードプラス5/CV-L4)はレプトスピラ4血清型(カニコーラ、イクテロヘモラジー、グリッポチフォーサ、ポモナ)をカバーします。

📝 選ぶ前に知っておきたいこと

3つあります。

  1. 犬コロナウイルスの分が乗っています。WSAVA 2024年版は、CCoVワクチンを「not recommended(推奨されない)」に分類しています
  2. 毎年の接種が前提になります。レプトスピラの防御は1年程度とされるため、間隔を空けにくい
  3. 後述しますが、混合ワクチンは狂犬病ワクチンより副反応の報告率が高いという国内データがあります

そして、順位をつけない理由

WSAVA日本語版ガイドラインに、日本の状況をそのまま言い当てたような一文があります。

VGGは、一部の国ではコアワクチンとノンコアワクチンの両方を含む、混合ワクチンのみが入手可能であることを承知している。VGGは製造業者に対し、可能であれば含まれる抗原の種類を減らしたワクチン(あるいは少なくともコアワクチンとノンコアワクチンを分けた)が入手できる状況にするよう働きかけるつもりである。

つまり、「5種か10種か」という選択肢の立て方そのものが、製品構成の都合によるものなんですよね。理想的には「コアは3年ごと、レプトスピラは必要な年だけ毎年」と分けたいのに、パッケージがそうなっていない。増える部分の中身は、犬の生活パターンによって「必要」にも「不要」にもなります。だからこの記事では、10種が上位で5種が下位、という並べ方をしていません。

費用はいくら違うのか 💰

日本獣医師会が全国の小動物診療施設の開設者1,365名から回答を得た「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査」の数値です。

項目 中央値 最も多い価格帯 その割合
犬混合ワクチン(5種・6種) 6,388円 5,000〜7,500円未満 71.8%
犬混合ワクチン(8種・9種・10種) 8,180円 7,500〜10,000円未満 57.9%
狂犬病予防注射 2,944円 2,000〜3,000円未満 48.4%
初診料 1,386円 1,000〜2,000円未満 73.6%
再診料 726円 500〜1,000円未満 76.3%

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中央値の差は1,792円です。「倍くらい違う」という体感より、実際の差は小さいことになります。

うちの子が5kgでも30kgでも、混合ワクチンの料金は体重で変わらない設定が一般的です。1年あたりで見ると、5種と10種の差は缶詰にして数個分、といったところでしょうか。

この数値は平成26年度に実施され、平成27年に公表されたものです。日本獣医師会は令和5年(2023年)にも同じ調査を行っているため、最新の数値は料金ページで確認してください。

また、この調査で公表されているのは中央値だけです。平均値や最頻値は載っていません。「平均◯◯円」という数字を見かけたら、出典を確認したほうがいいかもしれません。

犬の混合ワクチンは「5種・6種」「8種・9種・10種」の2グループで集計されています。種類ごとの単価は、この調査からは分かりません。

なお、獣医師の診療料金は独占禁止法の関係で、獣医師会が基準料金を定めることが禁止されています。各病院が個別に設定しているので、幅が出るのは制度上そういうものだ、ということです。

一次情報:2024年にレプトスピラの位置づけが変わった

WSAVAは2024年版ガイドラインで、レプトスピラワクチンの分類を変更しました。2016年版まではノンコアでしたが、条件付きでコアに引き上げられています。原文にはっきり書かれています。

Vaccines to protect dogs against leptospirosis were categorised as non-core in previous versions of these guidelines. (レプトスピラから犬を守るワクチンは、本ガイドラインの以前の版ではノンコアに分類されていた)

そのうえで、コア扱いにするための条件が3つ示されています。

  1. その地域で犬のレプトスピラ症が流行している(endemic)こと
  2. 関与する血清群(serogroup)が判明していること
  3. その血清型を含む適切なワクチンが市販されていること

そして、ここが重要なのですが、こう釘を刺しています。

A vaccine cannot be designated as "core" if it is uncertain which vaccine should be given. (どのワクチンを打つべきかが不確かなら、そのワクチンを「コア」と指定することはできない)

では、日本はこの3条件を満たしているのでしょうか。判断の材料になる国内のデータを並べます。

一次情報:日本のレプトスピラは「人」と「犬」で流行地が違う

人のレプトスピラ症は、圧倒的に沖縄県です。国立健康危機管理研究機構のIASR(2023年2月号)によると、2016年1月〜2022年10月末の届出273例のうち、国内感染例は257例(94%)。推定感染地は沖縄県が171例(63%)、次いで鹿児島県17例(6%)でした。

農林水産省 動物医薬品検査所「動物用医薬品等データベース「バンガードプラス 5/CV-L4」」
農林水産省 動物医薬品検査所「動物用医薬品等データベース「バンガードプラス 5/CV-L4」」(vm.nval.go.jp・2026-10-12時点の画面)

季節性もはっきりしています。国内感染例242例のうち、8月発症が最多(95例、39%)、7〜10月に集中(219例、90%)。感染経路は水系感染が206例(80%)で、沖縄県では171例中159例(93%)が水系でした。

「じゃあ都内なら関係ないのでは」と思いますよね。ところが。

犬の届出は、まったく違う分布をしています。

公益社団法人神奈川県獣医師会が農林水産省「届出伝染病の県別発生状況」をもとにまとめた資料(平成10年〜平成30年12月の累積)では、犬のレプトスピラ症の届出数の上位はこうなっています。

順位 都道府県 累積届出数
1 三重県 163
2 福岡県 154
3 宮崎県 96
4 静岡県 78
5 兵庫県 57
6 千葉県 52
7 京都府 44
8 東京都 42
9 沖縄県 41

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人の届出(2016〜2022年) 沖縄県 63% 鹿児島県 6% その他25県 31% 水系感染が8割。7〜10月に9割が集中 出典:JIHS/IASR 2023年2月号 犬の届出(累積・平成10〜30年) 三重県 163 福岡県 154 沖縄県 41(9位) 9〜11月にピーク。関東より西に集中 出典:神奈川県獣医師会(農水省統計より)

人では沖縄が63%なのに、犬では沖縄は9位。

理由は感染経路の違いだと考えられます。人の沖縄の症例は9割が水系感染、しかも近年は八重山地域でのレジャーガイドや川遊びが中心です(IASR Vol.47 No.557、2026年7月)。一方、犬は日常の散歩や庭で、ネズミなどの保菌動物の尿に汚染された土壌・水たまりに触れる機会が問題になります。

月別も違います。犬の届出は9月243件、10月280件、11月175件と秋にピークが来ていました。人の8月ピークとズレています。

この資料には、次の注記もついています。

このデータは、あくまで届出があった数の累積です。実際に発生していても届出がされていないケースは含まれません。つまりこのデータは、犬レプトスピラ症の発生状況における氷山の一角にすぎない、と考えられます。

血清群についても地域差があります。2007〜2016年のIASR特集では、国内で15の血清型が報告され、11の血清群に分類されるとされ、Hebdomadis(28%)、Autumnalis(11%)、Icterohaemorrhagiae(6%)が多いと報告されています。

ここで、さっきの表を思い出してください。日本の7種・8種に入っているレプトスピラは、カニコーラとイクテロヘモラジーの2血清型です。10種でグリッポチフォーサとポモナが加わります。国内で最も多く報告されているHebdomadis(ヘブドマディス)は、現行の混合ワクチンには含まれていません。

WSAVA 2024年版も、レプトスピラワクチンについて「血清型特異的な防御」であることを前提に議論しています。神奈川県獣医師会の資料も、こう書いています。

日本国内では14種類のレプトスピラ症病原菌型が報告されています。残念ながら全ての型を予防することはできません。

つまり「10種を打てばレプトスピラは万全」ということにはなりません。それでも甚急性の経過をとりやすいカニコーラ型とイクテロヘモラジー型をカバーする意味はある、というのが現行製品の設計思想のようです。

なお、東京都感染症マニュアルには「最近は、都市部でもネズミを多くみるような場所(下水道、市場など)での発生も報告される」という記述もあります。「都内の室内飼いだから完全に無関係」とまでは言えない、というのが公的資料の書きぶりです。

一次情報:副反応の実数

判断材料として、副反応の数字も見ておきます。日本獣医師会雑誌に掲載された、動物医薬品検査所の副作用情報データベース(2018〜2020年度)の解析です。

ワクチン 副作用報告数 製造量(ドーズ) 10万頭あたり報告数
狂犬病ワクチン 65 14,388,570 0.452
混合ワクチンA 76 4,413,637 1.72
混合ワクチンB 48 1,774,356 2.71
混合ワクチンC 45 2,102,210 2.14
混合ワクチンD 15 1,095,170 1.37

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混合ワクチンの副作用発現率は、狂犬病ワクチンの3〜6倍で、統計的にも有意に高かった(P<0.01)と報告されています。アナフィラキシーに限ると、10万頭あたり狂犬病0.292頭に対し、混合ワクチンは0.913〜1.95頭でした。

論文はその理由として、ワクチン中の牛血清アルブミン(BSA)濃度を挙げています。狂犬病ワクチンでは0.1〜16.6μg/doseなのに対し、混合ワクチンでは61.6〜3,678μg/doseと報告されており、狂犬病ワクチンには動物血清等の蛋白質量を100μg/dose以下とする規定がある一方、他の犬用ワクチンにはその規定がない、という制度の差が指摘されています。

数字の受け取り方ですが、10万頭あたり1〜3頭というのは、割合としては小さい部類です。ただゼロではありません。論文自体が「ワクチンは犬にとって異物であり、副作用をゼロにすることはきわめて困難である。したがって、犬へのワクチンの接種プログラムに配慮することも必要である」と結んでいます。

タイミングについては、具体的な数字が役に立ちます。

  • 副作用の発現は30分以内が最も多く、1時間以内で50〜70%、1日以内で70〜90%
  • 混合ワクチンでは3歳以下が副作用全体の50〜60%を占めた
  • キャニバック5の添付文書にも「アナフィラキシー反応(ショック)は、本剤注射後30分位までに発現する場合が多く見られる」と記載

添付文書には、飼い主向けの指導事項も書かれています。

  • 注射後しばらくは観察を続け、帰宅後もよく観察するよう指導すること
  • 注射前日および当日から2〜3日は安静に努め、激しい運動・交配・入浴・シャンプー等は避けること
  • 注射後、免疫が得られるまでの2〜3週間は犬同士の接触を避けるよう指導すること
  • 妊娠犬には使用しないこと
  • 3ヵ月齢以下の若齢犬では副反応の発現頻度が高いため、飼い主の理解を得た上で注射し、経過観察を十分に行うこと

午前中に予約を取るという選択には、こういう根拠があります。何かあったときに病院が開いている時間帯だからです。

なお、これらは「打たない理由」ではなく「打ち方を工夫する材料」です。過去にワクチンで異常な副反応が出た犬については、添付文書上も「注射しないこと」とされています。該当する場合は、かかりつけの獣医師に伝えてください。

狂犬病予防注射は、2027年3月から通年接種になります 📋

混合ワクチンとよく混同されるので、制度の整理をしておきます。

狂犬病予防注射は狂犬病予防法に基づく義務です。混合ワクチンは任意接種で、法律上の義務ではありません。別物です。

厚生労働省の狂犬病に関するQ&Aには、こうあります。

91日齢以上の犬の所有者は、その犬を所有してから30日内に市町村に犬の登録をし、鑑札の交付を受けるとともに、狂犬病の予防注射を犬に受けさせ、注射済票の交付を受けなければなりません。

登録も予防注射も鑑札の装着も、していない場合は20万円以下の罰金の対象になると明記されています。

2026年4月1日、令和8年厚生労働省令第73号により狂犬病予防法施行規則が改正され、公布されました(感発0401第1号)。改正内容は2つ。

  1. 予防注射を「4月1日から6月30日までの間に受けさせなければならない」とする規定を廃止し、通年での接種を可能とする
  2. 3月2日〜3月31日に接種した場合に翌年度の注射済票を交付する規定を廃止する

施行期日は令和9年(2027年)3月2日です。

つまり、2026年度中はまだ従来どおり4〜6月が接種期間で、通年接種になるのは2027年3月2日からということになります。

背景も公開されています。第100回厚生科学審議会感染症部会(2025年11月14日)の資料によると、1,789自治体のうち1,438自治体(回答率80%)へのアンケートで、通年接種に賛成する意見が約7割。4〜6月が支障と回答した自治体のうち8割以上が「年度当初の繁忙期と重なる」を理由に挙げていました。

ただし厚労省は、通知の中でしっかり釘を刺しています。

予防注射の時期の限定がなくなることにより、予防注射の実施間隔が延長することのないよう、少なくとも毎年同時期に1回の予防注射を実施することの徹底について、引き続き、犬の所有者に対して幅広く普及・啓発の広報を行う

「いつでもいい」は「打たなくていい」ではないということですね。改正後も4月1日〜6月30日を目安に「予防注射強化期間」を設定することが推奨されています。

ちなみに、厚生労働省の統計では令和6年度の犬の登録頭数は6,048,725頭、狂犬病予防注射頭数は4,281,702頭で、注射率は70.8%でした。

混合ワクチンと狂犬病予防注射をどのくらい空けて打つかについては、病院ごとの方針があります。かかりつけに確認してください。

混合ワクチンの接種率は、意外と低いかもしれません

もうひとつ、日本獣医師会雑誌の論文から。

2018〜2020年度の犬ジステンパーワクチンの製造量から、少なくとも2回接種されていると仮定して逆算すると、接種頭数は約210万頭。狂犬病ワクチン接種頭数の44%にしかならないという試算が示されています。

WSAVA日本語版にも「ワクチン接種を受けているペットの動物は先進国であっても30〜50%にすぎないと推定され」という記述があります。

集団免疫の観点では、これは低い水準です。WSAVAは「DOI(免疫持続期間)が長いコアワクチンによる集団免疫は、年1回のワクチン接種の数ではなく、その集団の中でワクチン接種を受けた動物の割合に大きく依存している」と説明しています。

つまり「頻度を上げること」より「打っていない犬を減らすこと」のほうが、社会全体では効いてくるという考え方です。これは5種か10種かという議論とは、別の軸の話ですね。

かかりつけで聞くとよいこと

ここまでの内容を、そのまま質問リストにしました。

  1. 「うちの子の生活だと、レプトスピラのリスクはどのくらいだと思いますか」 — 散歩コース、旅行の予定、庭の有無を具体的に伝えると答えやすくなります
  2. 「この病院で扱っているワクチンは、レプトスピラが何血清型入っていますか」 — 同じ「8種」でも中身が違う場合があります
  3. 「コアは3年ごと、レプトスピラだけ毎年、という組み方はできますか」 — 単味のレプトスピラワクチンは実際に承認されています
  4. 「抗体検査という選択肢はありますか。費用はどのくらいですか」 — WSAVAは支持していますが、日本語版には「検査にかかる費用のほうがワクチン接種よりも高い」という記述もあります
  5. 「午前中の予約は取れますか」 — 副反応の多くは30分以内に出ます

よくある質問

Q. 毎年10種を打っていますが、打ちすぎでしょうか。

「打ちすぎ」かどうかを判断できるのは獣医師です。ただ判断材料として、WSAVAはコアワクチン(ジステンパー・アデノウイルス・パルボ)について「3年毎よりも短い間隔で接種すべきではない」としており、日本の添付文書にも「3年の抗体持続」という記載があります。一方でレプトスピラは1年とされています。この差をどう扱うかが論点になるということです。心配になった場合は、上の質問リストを持ってかかりつけに相談してみてください。

Q. 5種と10種で、うちの子の負担は変わりますか。

抗原の種類が増えるので、理屈のうえでは反応の起きる要素は増えます。ただ、国内で公表されている副作用データは製品単位の集計(混合ワクチンA〜D)で、種数と副反応率の関係を直接示したものではありません。「10種のほうが危険」とも「変わらない」とも断定はできません。過去の接種でどんな反応が出たかは、その子ごとの重要な情報なので、記録して伝えてください。

Q. シニアになったら、もう打たなくていいですか。

WSAVA 2024年版のFAQに、直接の記述があります。「一定の年齢に達した犬へのワクチン接種を中止することは適切ではない(It is not appropriate to stop vaccinating dogs that have reached a certain, advanced age)」とされ、コアMLVワクチンについては3年を超えない頻度で生涯にわたる再接種が現行の推奨だと書かれています。ただし高齢犬の健康状態は個体差が大きいので、かかりつけの獣医師と決めてください。

Q. 6種に入っている「コロナ」は必要ですか。

WSAVA 2024年版は、犬コロナウイルス(CCoV)ワクチンを「not recommended(推奨されない)」に分類しています。理由として、成犬における主要な腸管病原体であるという根拠が弱いこと、子犬の下痢は通常軽度であること、感染がワクチン接種前の早い時期に起きることが多いこと、注射で接種された犬では腸管の防御的なIgA抗体応答が得られないことなどを挙げています。なお、これは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは別のウイルスです。

Q. ワクチンを打った日、シャンプーしてもいいですか。

添付文書には「注射前日及び注射当日から2〜3日は安静に努め、激しい運動、交配、入浴又はシャンプー等は避けるよう指導すること」と記載されています。トリミングの予約が入っている場合は、日程をずらすほうが添付文書の記載には沿う形になります。

Q. 子犬は何回打つのが正解ですか。

WSAVAは、6〜8週齢で開始し、2〜4週間隔で、最後の接種を16週齢以降に行うことを推奨しています。2週間より短い間隔での接種は推奨されていません。回数は開始週齢と間隔で変わります。さらに2024年版では、生後26週齢ごろの追加接種(または20週齢以降での抗体検査)が推奨に加わりました。一方、日本の添付文書は「3〜4週間隔で2回」という記載が一般的で、ガイドラインと添付文書で回数が食い違っています。WSAVA日本語版はこの食い違い自体を認めており、ガイドラインに沿って接種する場合は飼い主からインフォームドコンセントを得る必要があると書いています。ここは病院の方針が分かれるところなので、遠慮なく質問していい部分です。

まとめ

  • 「◯種」は成分の数ではなく、効能欄に並んだ疾病名の数。5種の抗原は4つ
  • 5種から10種で増えるのは、コロナウイルスとレプトスピラの血清型だけ。重い感染症への中核部分は共通
  • 中身は3年に1回でよいとされるもの(コア)と、毎年必要とされるもの(レプトスピラ等)が混在している
  • 費用の中央値の差は約1,800円(日本獣医師会調査、平成27年公表)
  • WSAVAは2024年版でレプトスピラを条件付きでコアに引き上げたが、条件の1つは「関与する血清群が判明していること」
  • 日本では、人のレプトスピラ症は沖縄に集中する一方、犬の届出は三重・福岡が上位という逆転がある
  • 国内で多い血清群Hebdomadisは、現行の混合ワクチンには含まれていない
  • 狂犬病予防注射は2027年3月2日から通年接種が可能になる(2026年度はまだ4〜6月)

うちの子にとっての正解は、住んでいる場所と、週末に何をしているかで変わります。この記事は、その会話をかかりつけの獣医師と始めるための材料です。最終的な判断は、うちの子を実際に診ている獣医師と一緒に決めてください。

※本記事の価格・制度に関する記載は2026年8月28日時点の内容です。製品の構成や料金は変わることがあるため、接種前に公式情報とかかりつけの動物病院でご確認ください。

調べたもと(出典 17件)
  1. 動物用医薬品等データベース「バンガードプラス 5/CV-L4」農林水産省 動物医薬品検査所・確認日 2026-08-28
  2. 動物用医薬品等データベース「ノビバック DHPPi+L」農林水産省 動物医薬品検査所・確認日 2026-08-28
  3. 動物用医薬品等データベース「ノビバック DHPPi」農林水産省 動物医薬品検査所・確認日 2026-08-28
  4. 動物用医薬品等データベース「ユーリカン 7」農林水産省 動物医薬品検査所・確認日 2026-08-28
  5. 動物用医薬品等データベース「バンガードL4」農林水産省 動物医薬品検査所・確認日 2026-08-28
  6. バンガード®の製品概要ゾエティス・ジャパン株式会社・確認日 2026-08-28
  7. 2024 guidelines for the vaccination of dogs and cats(WSAVAワクチネーションガイドライン2024年版)World Small Animal Veterinary Association(世界小動物獣医師会)・確認日 2026-08-28
  8. 犬と猫のワクチネーションガイドライン(日本語版・2016年版)World Small Animal Veterinary Association(世界小動物獣医師会)・確認日 2026-08-28
  9. 家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査(平成27年公表)公益社団法人 日本獣医師会・確認日 2026-08-28
  10. 日本における犬用ワクチンの製造状況とその副作用(日本獣医師会雑誌 76巻 124-128頁)公益社団法人 日本獣医師会・確認日 2026-08-28
  11. 狂犬病予防法施行規則の一部を改正する省令の公布について(感発0401第1号)厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部・確認日 2026-08-28
  12. 狂犬病予防法に基づく予防注射時期の見直しについて(第100回厚生科学審議会感染症部会 資料1)厚生労働省・確認日 2026-08-28
  13. 狂犬病に関するQ&A厚生労働省・確認日 2026-08-28
  14. 狂犬病予防注射頭数及び予防注射済み犬の登録頭数(平成26年度~令和6年度)厚生労働省・確認日 2026-08-28
  15. レプトスピラ症の発生状況(IASR Vol.44 2023年2月号)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト・確認日 2026-08-28
  16. イヌのレプトスピラ感染(IASR Vol.37 2016年6月号)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト・確認日 2026-08-28
  17. 使用の規制(動物用医薬品の要指示医薬品について)公益社団法人 日本動物用医薬品協会・確認日 2026-08-28

価格や条件は変わることがあります。購入前に各公式ページで、体のことはかかりつけの獣医師にご確認ください。 調べ方と広告の扱いは運営者情報・編集方針に書いています。

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