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犬の手作りごはんと市販フードの違い|総合栄養食にならない理由

手作りごはんが「総合栄養食」を名乗れないのは法律と規約の構造上の話です。国内208レシピの栄養調査から、カルシウムや銅がどれだけ足りないかを数字で示し、市販フードとの違い、獣医師に相談すべき場面までまとめました。

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犬の手作りごはんと市販フードの違い|総合栄養食にならない理由

鶏のささみを茹でて、にんじんとキャベツを刻んで、白いごはんを少し。喜んで食べる姿を見ながら、ふと思うわけです。「これ、栄養足りてるのかな」と。

結論から言うと、手作りごはんが「総合栄養食」を名乗れないのは、味や愛情の問題ではなく、制度上そう決まっているからです。そして実際の栄養面でも、国内208レシピを分析した研究で、基準をすべて満たしたレシピは1つもありませんでした。

この記事では、①なぜ名乗れないのか(法律と規約の構造)、②実際どの栄養素がどれだけ足りないのか(数字)、③じゃあうちの子はどうすればいいのか、の順で書きます。

この記事の目次
  1. 時間がない人へ:3行で 🦴
  2. そもそも「総合栄養食」は誰が決めている言葉なの?
  3. 袋のどこを見れば「総合栄養食」だと分かるのか 📋
  4. 「一般食」「おかずタイプ」は主食にならない
  5. ついでに:規約が「書いてはいけない」と決めていること
  6. 手作りごはんが基準を満たせない、いちばんの理由はカルシウム
  7. カルシウム:リン比が壊れるのが厄介
  8. 「ごはん+鶏むね肉」だけだと、カルシウムは基準の2%
  9. 「食材を増やせばバランスが取れる」は成り立たない
  10. 足りないだけじゃない。多すぎる事故も起きている
  11. 調理でも減る:焼くとチアミンが約20%消える
  12. 手作りと市販フード、違いを一覧で
  13. 一次情報:日本の飼い主は、実際どれくらい手作りしているのか 💰
  14. お金の話
  15. で、うちの子はどうすればいい? 🐾
  16. よくある質問
  17. この記事のまとめ

時間がない人へ:3行で 🦴

  • 完全に手作りだけで主食にするなら、獣医師や動物栄養の専門家にレシピを組んでもらうのが前提。自己流のレシピは、カルシウムが基準の2割前後しかないことが調査で分かっています
  • トッピングとして混ぜるなら、総合栄養食のフードを土台に。手作り分が増えるほど、土台の栄養バランスは崩れていきます
  • 「総合栄養食」と書かれた市販フードは、水と一緒に与えるだけで各成長段階の健康を維持できる設計。この表示は公正競争規約で定義された言葉で、誰でも自由に名乗れるものではありません
うちの子のごはん、3つの道 完全手作り 主食を全部自分で作る 要:専門家のレシピ設計 要:毎日の計量 要:不足分の補助食材 自己流だと不足が出やすい トッピング併用 総合栄養食+手作りを少し 土台の栄養は維持しやすい 手作り分だけカロリー調整 増やしすぎると土台が崩れる 「作ってあげたい」を両立 総合栄養食だけ 市販フード+新鮮な水 栄養設計は製品側が担保 成長段階を合わせるだけ 月の主食代は平均4,183円 ※2024年 ペットフード協会調査 どれが正解、ではなく「うちの子と自分の生活に合うのはどれか」で選ぶ

そもそも「総合栄養食」は誰が決めている言葉なの?

ここ、ものすごく分かりにくいところです。犬のごはんには性格の違う2つのルールがかかっていて、しかも手作りごはんはそのどちらにも入っていません。

ひとつ目は法律。ペットフード安全法(正式には「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」)で、2009年6月1日に施行されました。農林水産省と環境省の共管で、対象は犬と猫のフードです。

環境省のペットフード安全法のページ
環境省のペットフード安全法のページ(env.go.jp・2026-10-12時点の画面)

ふたつ目は業界の自主ルール。ペットフードの表示に関する公正競争規約です。景品表示法に基づいてつくられたもので、「総合栄養食」という言葉の定義はこっちに書いてあります。

規約の第3条第2項を読むと、こうあります。

毎日の主要な食事として給与することを目的とし、当該ペットフード及び水のみで指定された成長段階における健康を維持できるような栄養的にバランスのとれたものであって、(中略)栄養成分等に関する運用基準を常に満たすものをいう

つまり「これと水だけで、その成長段階の健康を維持できる」という約束が、この4文字に入っています。かなり重い言葉なんですよね。

犬のごはんにかかる2つのルール ① ペットフード安全法(国の法律・2009年6月施行) 守る対象:健康を損なうものが流通しないこと 成分規格(メラミン・かび毒・農薬の上限)/製造方法の基準 表示5項目の義務(1つ欠けても出荷停止) ② 公正競争規約(業界の自主ルール・景表法ベース) 守る対象:表示が消費者を誤解させないこと 「総合栄養食/間食/療法食/その他の目的食」の区分 成長段階の併記・証明文言・特定用語の使用基準 家庭の手作りごはん ①の対象外 法が規制するのは「販売用」 ②の対象外 表示する相手がいないため =栄養設計は 飼い主が全部背負う 「総合栄養食にならない」の一次的な理由は、栄養以前にこの構造にあります

農林水産省の資料を読むと、規制の言葉は一貫して「販売用愛玩動物用飼料」です。つまり、台所で作って自分の犬に出すごはんは、そもそも法律の射程に入っていません。届出も、表示義務も、成分規格もかかりません。

自由なんです。でもその自由は「誰も栄養を保証してくれない」とセットです。

袋のどこを見れば「総合栄養食」だと分かるのか 📋

市販フードの袋には、実は2つの制度が重なって9項目が並んでいます。最初の5つが法律で義務化されている項目、残りの4つが規約で表示されている項目です。

# 表示項目 根拠 具体例
1 名称 ペットフード安全法 犬用か猫用か分かるように
2 原材料名 ペットフード安全法 添加物含め原則すべて、重量順
3 賞味期限 ペットフード安全法 年月日または年月
4 事業者名・住所 ペットフード安全法 「発売元」という種別は認められない
5 原産国名 ペットフード安全法 最終加工工程を完了した国。日本なら「国産」可
6 目的 公正競争規約 総合栄養食/間食/療法食/その他の目的食
7 内容量 公正競争規約 g・kg・ml等の正味量
8 給与方法 公正競争規約 総合栄養食は成長段階・体重・回数・量
9 成分 公正競争規約 たんぱく質%以上、脂質%以上、粗繊維・灰分・水分%以下

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農林水産省の資料には「①から⑤までの項目が一つでも欠けていれば、出荷停止!」とはっきり書かれています。電話番号だけで住所がない、英語表記だけ、といったものも違反になります。

そして「総合栄養食」を名乗る製品には、必ずこの2つのうちどちらかの文言が入っています。

「この商品は、ペットフード公正取引協議会の定める分析試験の結果、総合栄養食の基準を満たすことが証明されています。」

「この商品は、ペットフード公正取引協議会の定める給与試験の結果、総合栄養食であることが証明されています。」

前者は成分を分析して基準値と照合したもの、後者は実際に犬に食べさせて経過を確認したもの。同じ「総合栄養食」でも、証明のルートが違います。袋の裏の小さい字なので見落としがちですが、ここが一番の目印です。

ペットフード公正取引協議会の「表示の基礎知識」
ペットフード公正取引協議会の「表示の基礎知識」(pffta.org・2026-10-12時点の画面)

「一般食」「おかずタイプ」は主食にならない

規約では、総合栄養食以外に3つの区分があります。ここ、正直かなり分かりにくいと思います。

区分 位置づけ パッケージの表示例
総合栄養食 主食。これと水で健康を維持できる設計 「総合栄養食」+成長段階+証明文言
間食 おやつ、ごほうび 「間食」「おやつ」「スナック」+給与限度量
療法食 特定の疾病・健康状態向け 「療法食」+獣医師の指導に基づく旨
その他の目的食 栄養の補給・調整、嗜好増進 「一般食(おかずタイプ)」「栄養補完食」「副食」「サプリメント」

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とくに紛らわしいのが4つ目。規約の施行規則には、その他の目的食の表示例として「一般食(総合栄養食と一緒に与えてください。)」という言い回しが明記されています。スーパーやドラッグストアで見かけるウェットの小さいパウチは、これに当たるものがかなり多い。

パッと見は立派なごはんに見えるのに、それだけでは主食として設計されていない。個人的には、この「一般食」という呼び方が誤解を生んでいる最大の犯人だと思っています。「おかず」と書いてあるほうがまだ伝わる。

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ついでに:規約が「書いてはいけない」と決めていること

ここは他所であまり書かれていない話です。公正競争規約の施行規則 第8条は、不当表示の類型としてこう挙げています。

  • 「AAFCO(又はNRC)認定、承認、合格」など、証明機関でないのに検査に合格したかのように誤認されるおそれがある表示
  • 「完全栄養食」「総合完全栄養食」等の表示
  • 客観的根拠に基づかない「天然」「自然」等の表示
  • 製品全体を指した「新鮮」「フレッシュ」「生」等の表示

AAFCO自身も、公式サイトで「AAFCO does not regulate, test, approve or certify pet food(AAFCOはペットフードの規制・試験・承認・認証を行わない)」と明言しています。栄養基準というモデルをつくっている団体であって、お墨付きを出す機関ではないんですね。

だから「AAFCO認定」と大きく書いてある商品広告を見かけたら、それは規約が想定している誤認表示の形にかなり近い。これを見つけたときは、正直ちょっと驚きました。

なお「ビーフ」「チキン」「まぐろ」といった原材料名を商品名や写真に使うには、その原材料が内容量の5%以上であることが条件(第7条)。パッケージに大きくチキンの写真が載っていても、5%で条件は満たせます。ここも地味に見落としがちなポイントです。

手作りごはんが基準を満たせない、いちばんの理由はカルシウム

制度の話はここまで。ここからは実際の栄養の数字です。

京都大学の清水いと世氏らが、日本国内の維持期(成犬)向け手作り食レシピ208件を集めて栄養素を算出した研究があります(ペット栄養学会誌 20(2):99-113, 2017)。内訳は、飼い主へのアンケートで集めた実際のレシピ63件と、書籍に載っていたレシピ145件。

結果はこうでした。

  • すべての栄養素を完全に充足したレシピは1件もなかった
  • 充足率を平均した「必須栄養素指数」は71.6±10.2(範囲47.2〜97.3)。100が満点
  • 90を超えたのは5レシピ(2.4%)だけ
  • 飼い主レシピ70.6、書籍レシピ72.1で、ほとんど差がなかった

書籍のレシピでも指数が72ということは、「ちゃんとした本を見て作っている」だけでは埋まらない、という話になります。

手作り食208レシピの充足率(中央値・AAFCO2016最小値=100%) 基準ライン 100% 粗たんぱく質 リン 鉄 銅 亜鉛 カルシウム ビタミンA ヨウ素 191% 107% 73% 45% 40% 20% 12% 8% 出典:清水ほか, ペット栄養学会誌 20(2):99-113, 2017(代謝エネルギー1000kcalあたりで比較)

見てのとおり、たんぱく質とアミノ酸はほぼ全レシピで足りています。アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、バリンは、208レシピの全部が基準を超えていました。肉や魚を使うので、当然といえば当然です。

問題は、その先。

栄養素 充足率の中央値 基準を満たしたレシピの割合
粗たんぱく質 191% 97.1%
リン 107% 57.7%
コリン 73% 49.0%
鉄 73% 25.5%
ビタミンE 70% 28.4%
ビタミンB12 43% 26.9%
亜鉛 40% 6.3%
銅 45% 2.9%
ビタミンD 24% 32.2%
カルシウム 20% 5.5%
ビタミンA 12% 5.4%
ヨウ素 8% 16.8%

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カルシウムを満たしていたのは5.5%、つまり208件中およそ11件。銅にいたっては2.9%です。100レシピ作って3つ、という世界。

カルシウム:リン比が壊れるのが厄介

もうひとつ、単独の量より大事なのがバランスです。カルシウムとリンの比(Ca:P)の充足率は中央値24%、満たしていたのは4.8%でした。

肉を増やすとリンは勝手に増えます。でもカルシウムは肉にほとんど入っていない。だから「良質なたんぱく質をたっぷり」の方向で作るほど、比は悪くなる。

Yahoo!知恵袋には、キャベツ・にんじん・大根を茹でてささみとゆで卵をのせたレシピについての相談があり、回答には「カルシウムが全然足りてません。ほぼゼロです」「マグネシウムとか亜鉛とか銅とかそういったミネラル類も全然足りてません」という指摘が付いていました。研究データとぴたり一致する内容です。

別の相談では、20種類近い食材で1週間分を作り置きしている飼い主に対して、「骨と内臓が入っていない時点で様々なミネラルやビタミンが不足」という回答が付いていました。手間をかけている人ほど、この指摘は刺さると思います。

「ごはん+鶏むね肉」だけだと、カルシウムは基準の2%

同じ研究グループの別の論文(ペット栄養学会誌 20(1):12-21, 2017)では、糖質源とたんぱく質源を等量で組み合わせた15種類の「基本食」を計算しています。ごはん+鶏むね肉、ごはん+豚ひき肉、じゃがいも+鶏もも肉、といった、いかにも作りそうな組み合わせです。

その15種すべてで、カルシウム・銅・ビタミンEが不足しました。そしてカルシウムの充足率は——

中央値2%(範囲0〜6%)。

ヨウ素は中央値0%。ビタミンAは8%。一方で粗たんぱく質は173%。ちなみにすべてのビタミンとミネラルを充足した基本食は1つもありませんでした。

「ごはんとお肉と野菜を茹でたもの」は、犬にとってはたんぱく質だけが突出した、ミネラルのほぼ入っていない食事になる。これが計算上の姿です。

「食材を増やせばバランスが取れる」は成り立たない

ここが個人的に一番おもしろい、というか意外だった発見です。

同じ208レシピについて、使った食材の数と必須栄養素指数の関係を調べています。直感的には、種類を増やせば増やすほどバランスが良くなりそうですよね。

結果は、相関係数0.231。統計的には有意でも、関係としてはかなり弱い。

そして具体例がすごい。

  • 25種類の食材を使ったレシピの指数 → 84.6(まだ不足がある)
  • たった3種類の食材を使ったレシピの指数 → 96.5
食材の「数」と栄養バランスは、ほとんど関係がない 100 70 40 必須栄養素指数 使った食材の数 → 3種類のレシピ → 96.5 少ない食材でも組み方次第でここまで届く 25種類のレシピ → 84.6 品数を増やしても穴は残る 出典:清水ほか, ペット栄養学会誌 20(2):99-113, 2017(相関係数0.231, n=208)

つまり、必要なのは品数ではなく「不足しやすい栄養素を多く含む食材を、狙って入れること」。にんじん、ブロッコリー、かぼちゃ、しめじ、トマト……と彩りを増やしても、カルシウムと銅とヨウ素の穴は埋まらないわけです。

研究チームが設計した「補助食」の中身を見ると、その狙い撃ち感がよく分かります。

材料 割合 何を補うため
豚レバー 42.6% 鉄・銅・亜鉛・ビタミンA・リボフラビン・コリン
小麦胚芽 32.2% 銅・マンガン・亜鉛・ビタミンE・チアミン
煮干し 17.3% カルシウム・ナトリウム・ビタミンD
とうもろこし油 5.4% 脂肪源・リノール酸
鶏卵殻 2.0% カルシウム、Ca:P比の調整
乾燥ひじき 0.5% ヨウ素

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鶏卵殻のカルシウムは100gあたり31.6g。一方でリンは0.077gしかないので、Ca:P比を持ち上げる材料として使われています(論文中では、サルモネラ感染症のおそれがあるため加熱後の使用が望ましいと記載されています)。

この補助食は代謝エネルギー1000kcalあたり404g。仮に1日400kcalが必要な犬で、基本食と補助食をエネルギーで半々にすると、補助食は1日およそ81gです。内訳にすると、豚レバー約34g、小麦胚芽約26g、煮干し約14g、とうもろこし油とひじきと卵殻が残り。

これを毎日、量って、作る。365日。

……ここまで見て正直に思ったのは、「これは強い意志がないと続かない」ということです。研究チームは「煩雑さが少なく獣医師やペット栄養管理士が容易に飼い主に指導できる」設計を目指した、と書いています。それでこの分量。逆に言えば、市販の総合栄養食はこの作業を全部やってくれているということでもあります。

足りないだけじゃない。多すぎる事故も起きている

手作り食の話は「不足」ばかりが強調されがちですが、208レシピの調査では過剰も見つかっています。ここは覚えておく価値があります。

栄養素 過剰だったレシピ 原因になっていた食材
ヨウ素 18レシピ(8.7%) すべて海藻を含む。昆布を使った10レシピは全部が過剰
ビタミンD 27レシピ(13%) 鮭を使った15レシピとカレイの3レシピは全部が過剰
ビタミンA 5レシピ(2.4%) すべて鶏レバー
n-6:n-3比 7レシピ(3.4%) すべてごま油。n-3源の併用が少ない
カルシウム 1レシピ 骨付き手羽を現物あたり81%使用

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昆布が全滅、というのはなかなかインパクトがあります。「ミネラルが豊富だから」と足す食材が、AAFCOの最大値を超えてしまう。銅についても、鶏レバーを使った2レシピは充足率1130%と1286%でした。

「良かれと思って足す食材」で上に振り切れる 最小値を下回る(不足) 最小値〜最大値のあいだ = 品質が保たれる幅 最大値を上回る(過剰) 昆布・ひじき ヨウ素が過剰に 昆布入り10レシピは すべて最大値超え 鮭・カレイ・アジ ビタミンDが過剰に 鮭入り15レシピは すべて最大値超え 鶏レバー ビタミンAが過剰に 銅も充足率1130%・ 1286%の例あり 出典:清水ほか, ペット栄養学会誌 20(2):99-113, 2017

不足が気になって食材を足し、その食材で別の栄養素が振り切れる。この往復が、独学の手作り食でいちばん起きやすい事故のかたちだと思います。持病のある子や、シニア、腎臓・尿路の既往がある子では、この上振れが意味を持つ場面があります。気になる場合は獣医師に相談してください。

調理でも減る:焼くとチアミンが約20%消える

見落とされがちな話をひとつ。同じ研究では、実際に調理してビタミンB1(チアミン)の残り方を測っています。

ごはん・にんじん・鶏肉を等量で混ぜてパティ状にし、

  • ゆで調理(沸騰後10分、中心温度89℃)→ チアミンの損失は認められなかった
  • 焼き調理(180℃で20分、中心温度62℃)→ 約20%のチアミンが消失

集めたレシピでは、ゆで調理が80%以上、焼き調理が40%で使われていました(重複あり)。AAFCOの養分基準は「動物に給与するときの推奨量」なので、加熱で減る分は本来その手前で見込んでおく必要があります。

レシピ本の栄養計算は、たいてい生の食材の成分表をもとにしています。つまり、紙の上で100%満たしていても、焼いて出した時点でB1は80%になっている。この差は、自分では絶対に気づけません。

手作りと市販フード、違いを一覧で

ここまでの話を、比較しやすい形に並べます。2026年9月11日時点の情報です。

比べる項目 家庭の手作りごはん 市販の総合栄養食 市販の一般食(おかずタイプ)
法律の規制 なし(販売用でないため) ペットフード安全法の対象 ペットフード安全法の対象
栄養基準 誰も保証しない 規約の運用基準を常に満たす 満たさなくてよい
証明の方法 ― 分析試験または給与試験 ―
成長段階の指定 自分で判断 5区分から表示(哺乳期/妊娠・授乳期/幼犬期/成犬期/全成長段階) なし
表示義務 なし 9項目 9項目
給与量の目安 自分で計算 体重別に袋に記載 「一緒に与えてください」等の記載
有害物質の上限 ― メラミン2.5、アフラトキシンB1 0.02など規格あり(μg/g) 同左
不足しやすい栄養素 カルシウム・銅・亜鉛・ヨウ素・ビタミンA ― ―
費用の目安 食材費+補助食材+手間 月平均4,183円(中央値3,000円) 主食代とは別
向いている場面 食べない子、市販フードが使えない事情がある子 日々の主食 トッピング、食欲が落ちたとき

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「規格あり」の欄にある数字は、環境省が公表しているペットフード安全法の成分規格です。メラミン2.5μg/g、アフラトキシンB1 0.02μg/g、カドミウム1、鉛3といった上限が決まっていて、犬用のエトキシキンは75μg/g以下。この安全の網は、台所で作るごはんにはかかりません。かからないから危険だ、という話ではなく、「原材料の履歴を自分で見ている分だけ、自分が検査役になっている」ということです。

一次情報:日本の飼い主は、実際どれくらい手作りしているのか 💰

数字で見ると、イメージとだいぶ違います。ペットフード協会の「2024年 全国犬猫飼育実態調査」から、犬の主食に占めるフードタイプの構成比です(n=1,213)。

フードタイプ 主食に占める平均構成比 「全く利用していない」割合
市販のドライタイプ 70.89% 10.8%
市販のウェットタイプ 10.75% 62.7%
市販のソフトタイプ 7.62% 79.3%
手作りの犬用食事 5.36% 78.9%
犬用療法食 2.78% 94.8%
人間と全く同じ食事 0.80% 94.8%
人間の食事の残り 0.79% 94.1%

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犬の主食は、平均すると7割がドライフード ドライ 70.9% ウェット 10.8% ソフト 7.6% 手作り 5.4% 療法食ほか ※「手作りを全く利用していない」は78.9%。裏返すと約2割の家庭が何らかの形で取り入れている 出典:ペットフード協会 2024年全国犬猫飼育実態調査(n=1,213)

平均構成比は5.36%。でも「全く利用していない」が78.9%ということは、約2割の家庭は何らかの形で手作りを取り入れているわけです。完全手作りは少数派で、多くはトッピング的な使い方、という姿が見えてきます。

先ほどの研究の飼い主アンケート(n=46)も同じ方向を示していました。手作り食のみを与えている飼い主が半数を上回る一方、市販フードを併用している飼い主が30%程度。ビタミンやミネラル剤を与えていたのは20%でした。

お金の話

同じ調査から、犬1頭飼育者の1か月あたりの支出です(2024年)。

項目 月平均 中央値
市販の犬主食用ドッグフード 4,183円 3,000円
市販の犬おやつ用ドッグフード 1,853円 1,000円
犬に関する支出総額(医療費等含む) 16,198円 12,000円

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体重別に見ると、主食用フードの年間平均は超小型で40,362円、小型で48,733円、中・大型で67,406円。調査対象の犬の平均体重は7.72kgです。

「手作りのほうが安いのでは」と考えている方もいると思いますが、月3,000円前後のフードを、レバーと小麦胚芽と煮干しと卵殻を揃えて再現しようとすると——食材費だけでも近い水準になります。そこに毎日の調理時間が乗る。手作りを選ぶ理由は、コストではないところにあると考えたほうが実態に近そうです。

で、うちの子はどうすればいい? 🐾

条件別に整理します。断定はできないので、判断材料として読んでください。

① 市販フードをちゃんと食べてくれている 無理に変える理由は見当たりません。袋の裏の「総合栄養食」と成長段階(成犬期/維持期など)が、うちの子と合っているかだけ確認してください。7歳を過ぎているのに幼犬期用のままだった、というのは案外あります。

② 作ってあげたいけど、栄養が不安 トッピングから。総合栄養食を土台にして、手作り分を少しだけ乗せる形です。手作り分のカロリーだけフードを減らすのがポイント。土台を崩さない範囲なら、208レシピ調査で問題になったカルシウム欠乏は起きにくい構図になります。

③ フードを食べない/アレルギーで使えるフードがない ここが本来の手作り食の出番です。ただし自己流で組むと、この記事で見たとおり穴が開きます。動物病院で相談して、うちの子の体重・年齢・持病に合わせてレシピを設計してもらうのが現実的な進め方です。研究チームが「獣医師やペット栄養管理士が容易に飼い主に指導できる」設計法を発表しているのも、まさにこの層に向けてです。

④ すでに完全手作りを続けている やめる必要はないと思います。ただ、カルシウム源(煮干し・卵殻など)と、銅・亜鉛・ビタミンAの源(レバーなど)が毎日のレシピに入っているかは一度点検してみてください。入っていないなら、次の健康診断のタイミングで獣医師にレシピを見てもらうのがいいはずです。

⑤ 子犬・妊娠中・授乳中 成長期の栄養要求量は維持期より高く設定されています。規約でも成長段階は5区分に分かれていて、フードごとに適用される段階が違う。この時期の完全手作りは、獣医師の関与なしに進める場面ではありません。

よくある質問

Q. 「総合栄養食」と書いてあれば、どの製品でも中身は同じ?

同じではありません。証明のルートが2つあります。分析試験(成分を測って基準と照合)と給与試験(実際に犬に食べさせて確認)で、袋の証明文言が違います。また、規約では処方変更後も「総合栄養食」を名乗り続ける条件が定められていて、たんぱく質・カルシウム・リン・亜鉛・リジン・ビタミンB1の分析値が同等であることが求められます。原材料が少し変わることは制度上あり得る、ということです。

Q. 日本の総合栄養食の基準は、AAFCOの何年版?

規約本体には年号が書かれておらず、「栄養成分等に関する運用基準」という別文書で定められています。2017年の学術論文では「AAFCO養分基準(1997)を採用」と記載されていて、AAFCOは2016年に大幅な改定を行いました。最新の適用状況は、ペットフード公正取引協議会の公表資料で確認してください。

Q. 手作りごはんに市販のサプリを足せば基準を満たせる?

「足せば満たせる」とは言えません。何が、どれだけ足りないかはレシピごとに違うからです。208レシピの調査でも、ビタミン・ミネラル剤を使っていた飼い主は20%でしたが、含まれる栄養素量が不明だったため計算から除外されています。使うなら、レシピと一緒に獣医師に見てもらう形が確実です。

Q. 骨付き肉を使えばカルシウムは足りる?

骨付き手羽のカルシウムは現物100gあたり1.83g、手羽元は2.05gと測定されています。Ca:P比も卵殻・ひじき・干しエビ・小松菜に次ぐ高さでした。ただし調査では、骨付き手羽を現物あたり81%も使ったレシピでカルシウムが最大値を超えていた例もあります。論文には骨による消化管損傷のおそれについての記述もあり、圧力調理を行ったうえで成分分析されています。量の管理が要る食材です。

Q. 「一般食」を主食にしてはいけない?

規約上、一般食は「一日に必要な栄養を満たすために別途栄養補給する必要がある旨」または「同時に与える必要があるペットフードや食材の名称」を併記することになっています。つまり単独で主食にする想定で作られていません。パッケージに「総合栄養食と一緒に与えてください」と書かれているなら、そのとおりの使い方が設計意図です。

Q. 焼くよりゆでたほうがいい?

ビタミンB1に関しては、ゆで調理で損失が認められず、焼き調理では約20%が失われたという結果が出ています。ただし他の栄養素については同じ実験で測られていません。1つの指標だけで調理法を決められる話ではないので、判断が要る場合は獣医師に相談してください。

この記事のまとめ

  • 「総合栄養食」は公正競争規約で定義された言葉。家庭の手作りごはんは、販売用でないためペットフード安全法の対象外であり、規約の対象でもありません。名乗れないのは構造上の話です
  • 国内208レシピの調査で、全栄養素を満たしたレシピは0件。必須栄養素指数は平均71.6で、90を超えたのは2.4%だけ。書籍のレシピでもほぼ同じでした
  • 足りないのはカルシウム(中央値20%)・銅(45%)・亜鉛(40%)・ヨウ素(8%)・ビタミンA(12%)。たんぱく質とアミノ酸はほぼ全レシピで足りています
  • 食材の数を増やしても解決しない。25種類使って84.6、3種類で96.5という例があり、相関はほぼありませんでした
  • 昆布でヨウ素、鮭でビタミンD、鶏レバーでビタミンAが最大値を超える。不足だけでなく過剰も起きます

次にやること: 今日、フードの袋の裏を見てください。「総合栄養食」の4文字と、その横の成長段階(成犬期・維持期など)。うちの子の年齢と合っていなければ、そこが一番手っ取り早い改善点です。手作りを続けている方は、次の健康診断のときにレシピをメモして持っていってください。

記載の価格・制度内容は2026年9月11日時点のものです。最新の内容は各公式サイトで確認してください。

調べたもと(出典 15件)
  1. ペットフードの表示に関する公正競争規約・同施行規則全国公正取引協議会連合会・確認日 2026-09-11
  2. 公正競争規約に基づく必要表示事項及び表示制限についてペットフード公正取引協議会・確認日 2026-09-11
  3. 表示に関するQ&Aペットフード公正取引協議会・確認日 2026-09-11
  4. 04.総合栄養食とライフステージについて|表示の基礎知識ペットフード公正取引協議会・確認日 2026-09-11
  5. 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)環境省・確認日 2026-09-11
  6. ペットフード安全法基準規格等環境省・確認日 2026-09-11
  7. 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)の概要(平成27年2月)農林水産省 消費・安全局 畜水産安全管理課・確認日 2026-09-11
  8. ペットフードの安全関係(事業者のみなさま向けページ)農林水産省・確認日 2026-09-11
  9. 維持期におけるイヌ用手作り食レシピの栄養素含量調査(ペット栄養学会誌 20(2):99-113, 2017)日本ペット栄養学会/清水いと世・舟場正幸・松井徹(京都大学)・確認日 2026-09-11
  10. イヌの維持期のAAFCO養分基準(2016)を満たす手作り食レシピの設計法(ペット栄養学会誌 20(1):12-21, 2017)日本ペット栄養学会/清水いと世・舟場正幸・松井徹(京都大学)・確認日 2026-09-11
  11. 令和6年 全国犬猫飼育実態調査「犬 飼育・給餌実態と支出」一般社団法人ペットフード協会・確認日 2026-09-11
  12. Understanding Pet Food(AAFCO does not regulate, test, approve or certify pet food)Association of American Feed Control Officials(AAFCO)・確認日 2026-09-11
  13. 【獣医師監修】総合栄養食って、何?ペットライン株式会社・確認日 2026-09-11
  14. Yahoo!知恵袋「犬の手作りご飯について質問です。週末に一週間分の作り置きとして…」(作り置きレシピへの栄養指摘)Yahoo!知恵袋・確認日 2026-09-11
  15. Yahoo!知恵袋「ドッグフードと手作りご飯どっちが健康に良いのでしょうか?」(カルシウム不足の指摘)Yahoo!知恵袋・確認日 2026-09-11

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